1、不妊鍼灸でよく目にする「妊娠率70%以上!」の数字
不妊鍼灸・・・。不妊治療を続けてもなかなか思うような結果にならない方が、たどりつくのが不妊鍼灸という世界です。きっとこのページを訪問されている方も、何回かトライしてみた不妊治療の結果「やっぱり今回も陰性だった・・・」と落ち込む気持ちを抱えて、ネットの世界に入り込み、この場にたどりついたのではないでしょうか。
ここまでたくさんのお金と時間を使い、精神も疲弊し、「もう後がない!」「これで最後だ!」という気持ちで駆け込んだ「不妊鍼灸」という世界・・・。その世界に入ってみたらあちこちの鍼灸院のHPで、「妊娠率70%以上!」、「47歳で出産事例!」などのキャッチ―な言葉が目に飛び込み・・・!「これだっ!これで希望はまだつながる!」との思いで、皆さん、不妊鍼灸の世界へと踏み出すのではないでしょうか。
不妊治療をしていた当の私自身も、そうして不妊治療と並行しながら鍼灸治療を受けるようになりました。10年前のあのときはまだ「不妊鍼灸」というサービスが市場に出て来たばかりの頃で、「妊娠率は45%!」と今よりもその数字はずいぶんと低かったのですが、それでも2人に1人という可能性が提示されたことに心を掴まれ、訳が分からずとも、まずは始めてみようと鍼灸治療に通うようになりました。
2、妊娠の確率
でもちょっと待ってください。鍼灸を受けたらいきなり妊娠率が70%になってしまうのでしょうか?一般的に妊娠を希望している健康な男女であれば、3カ月以内で約50%が、半年で約70%、1年以内で90%近くが妊娠に至るといわれています。つまり1年ほどで9割近くのカップルが妊娠していくというのが目安です。
不妊症の定義としては、生殖年齢の男女が妊娠を希望し、一定の期間避妊することなく通常の性交を継続的に行っているにもかかわらず、妊娠の成立が見られない場合のことをいい、その一定期間とは「1年」というのが一般的だといわれています。
そしてこの不妊症の方々の治療選択として近年目覚ましい展開を見せているのが、生殖補助医療の技術です。体外受精や顕微授精の生殖補助医療を行うと、胚移植あたりの妊娠率は35歳でおよそ45%に達します。生殖補助医療を行った2人に1人が妊娠するということになりますが、これは女性の年齢上昇とともに低下し、40歳では30%、42歳では20%に減っていきます。さらにいえば、これはあくまでも妊娠率であり、妊娠後に流産する場合も想定しておく必要があります。流産率は40歳を越えて妊娠率と逆転していきます。42歳の妊娠率は20%ですが、流産率はそれをはるかに超える40%あまりとなります。
3、不妊鍼灸での妊娠率
このように近年目覚ましい発展を遂げた生殖補助医療の技術をもってしても、20~45%という可能性ですから、不妊鍼灸でよく目にする「70%」という数字がいかに大きな数字であるかという印象をまず最初にもってしまうでしょう。
しかし不妊鍼灸を行う鍼灸院の妊娠率は、先の二つの確率と同じ目線では比較できません。〇%以上と謳っている鍼灸院に一つひとつ尋ねたわけではないので明確には示せませんが、おそらく不妊鍼灸での妊娠率というのは、1人のクライエントがその鍼灸院で不妊鍼灸の施術を受けて「陽性判定」を受けた割合ということになると思います。別の言い方をすれば、長期にわたって繰り返し不妊鍼灸を受けようやく「陽性判定」になったというケースもこの場合に含まれているでしょう。
不妊鍼灸の臨床現場において、数年にわたって通院される方はめずらしくありません。つまりこれは累積された妊娠の確率であり、施術1回でのクライエントの妊娠率を示すものではないということに注意した方がよいでしょう。また、その鍼灸院で陽性判定を受けたクライエントが、自然妊娠での妊娠だったのか、人工授精や体外受精を行った上での妊娠だったか、不明瞭な場合があります。もちろん中にはその妊娠経路の違いを明記していることもありますが、私が施術を行っていた不妊専門の鍼灸院では、そこにやってくる女性のだいたい8割ほどは体外受精を行っていました。体外受精を何度も繰り返し、その間に不妊鍼灸を受けて、そして妊娠に至ったクライエントの数がその数字の大部分に含まれているでしょう。
4、数字に囚われないで
これから不妊鍼灸を始めようとする方に伝えたいことは、「妊娠率70%以上!」などの数字を見て、妊娠の確率が魔法のように一気に高まるものとして期待するのは禁じたほうがいいということです。そしてその数字を見たとき、自分は妊娠できない残りの3割に含まれるとはなかなか考えられません。7割のうちの1人に自分が入っていることを期待してその鍼灸院の門を叩くことがほとんどでしょう。
しかしそこからが実は長いのです。不妊鍼灸でできることは、本HPの「不妊鍼灸」の症状別ページをご覧いただければと思いますが、1、骨盤内の血流の改善、2、ホルモンバランスの調整、3、自律神経の乱れを整えるという3大アプローチが主たることで、西洋医学では「原因不明」に分類される方への「体質改善」を行い、質の高い卵子の育成、受精のための子宮内の環境を整えるなど、妊娠のための体づくりを支援することです。それは、胚盤胞を移植したら数日後には陽性判定・・・というようなスピードで展開するものではありません。
5、大切なのは体質を変えるための気づき
だいたい不妊鍼灸に通い出したクライエントの体質が変わっていくのは、3カ月から6カ月が目安となります。あくまでも目安です。これ以上かかる方も当然います。長年溜め込んだ、習慣化された体質を変えていくにはある程度の時間を要します。
しかし期待が大きすぎて、一般的に提示されている期間のうちにもし「陽性判定」が出なかったら、焦り、落ち込み、ストレスがより募るでしょう。そうなると、せっかく鍼灸で整えた全身の血流や自律神経のバランスが乱れることになり、元の木阿弥になってしまいます。
また、この点がいちばん大きいと思いますが、不妊鍼灸は今駄目だったことが明日変化するような魔法のような技術ではありません。不妊鍼灸にさえ通えば、治療院に来てベッドに横になってさえいれば妊娠できるというものではなく、治療にはクライエントのコミットメントが重要です。「体質を変える」のはクライエント自身の気づきと、その体質を変えようとする気持ちがより重要になります。
当院の鍼灸治療は、個々の状態をしっかりと見ていくため、施術の内容はそれぞれ異なります。施術の一般化を避けます。その上で東洋医学の概念で体に対するクライエントの気づきをサポートします。不妊鍼灸の最終ゴールは、陽性判定ではなく無事に妊娠・出産することです。体質を変えるというある程度時間を要する妊活期間を、いかに前向きに過ごすかということがゴールまでたどり着く秘訣です。
当院ではそのためのサポート体制(営業時間・場所・費用)も十分に整えていますので、妊活で迷われている方はぜひご相談ください。みなさまの妊活を全力でサポートいたします。
【参考文献】
斎藤隆和「生殖補助医療(ART)の立場から 女性年齢の妊孕性に及ぼす影響:卵子のエイジング」『周産期医学』第52巻3号、東洋医学社、2022年
一般社団法人日本生殖医学会編『生殖医療の必修知識2020』杏林舎、2020年